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大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)59号 判決 1996年8月28日

大阪市生野区新今里五丁目一六番一四号

原告

池田拓治

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

被告

生野税務署長 山添元昭

右指定代理人

阿多麻子

石井洋一

近沢撃

江木修

主文

一  本件訴えのうち、被告が原告に対して昭和六三年四月一四日付けでした昭和六二年分所得税に係る更正の請求につき更正すべき理由がない旨の通知の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対して昭和六三年四月一四日付けでした昭和六二年分の所得税に係る更正の請求につき更正すべき理由がない旨の通知を取り消す。

二  被告が原告に対して昭和六三年一一月二二日付けでした次の各所分を取り消す。

1  昭和六〇年分の所得税に関する更正うち、総所得金額二一〇万二四七二円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後のもの)

2  昭和六一年分の所得税に関する更正のうち、総所得金額一五五万三五〇三円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後のもの)

3  昭和六二年分の所得税に関する更正のうち、総所得金額三万〇二八八円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後のもの)

第二事案の概要

一  本件は、原告が、昭和六〇年分から昭和六二年分まで(以下「本件各係争年分」という。)の所得税に関し、原告には所得税の課税対象となる株式売買による雑所得は存在しないと主張して、<1>被告が昭和六三年四月一四日付けでした昭和六二年分の所得税に係る更正の請求につき更正すべき理由がない旨の通知(以下「本件通知」という。)、<2>被告が昭和六三年一一月二二日付けでした本件各係争年分の所得税に関する更正(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件各更正」という。)の一部、<3>被告が昭和六三年一一月二二日付けでした本件各係争年分の所得税に関する過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後もの。以下「本件各決定」という。)の各取消しを求めている事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  本件課税処分の経緯

(一) 原告は、昭和六〇年分及び昭和六一年分の所得税について、別紙一1記載のとおり確定申告及び修正申告を行ったところ、被告は、同記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定を行った。

原告の右各処分に対する不服申立ての経緯は、別紙一1記載のとおりである。

(二) 原告は、昭和六二年分の所得税について、別紙一2記載のとおり確定申告及び更正の請求を行ったところ、被告は、同記載のとおり本件通知を行い、さらに同記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定を行った。 原告の右各処分に対する不服申立ての経緯は、別紙一2記載のとおりである。

2  本件各係争年分の総所得金額のうち、株式売買による雑所得以外の所得金額

原告の本件各係争年分の総所得金額のうち、株式売買による雑所得以外の所得金額は、別紙二の<6>、<7>、<8>及び<9>の「貸金利息」の各欄記載のとおりである。

3  本件各係争年中に原告名義で行われた株式取引に係る株数

(一) 昭和六〇年中に原告名義で行われた株式取引は、別表一の「注文」欄(ただし、株式売買の注文日時を除く。)及び「成立」欄記載のとおりであり、取引株数は合計四一万三〇〇〇株である。

(二) 昭和六一年中に原告名義で行われた株式取引は、別表二の「注文」欄(ただし、株式売買の注文日時を除く。)及び「成立」欄記載のとおりであり、取引株数は合計四七万九〇〇〇株である。

(三) 昭和六二年中に原告名義で行われた株式取引は、別表三の「「注文」欄(ただし、株式売買の注文日時を除く。)及び「成立」欄記載のとおりであり、取引株数は合計八一万九〇〇〇株である。

4  本件各係争年中に家族名義で行われた株式取引に係る株数及び株式売買の回数

(一) 昭和六〇年中に原口ハルミ(以下「ハルミ」という。)名義で行われた株式取引は、別表四記載のとおりであり、取引株数は合計一万七〇〇〇株、株式売買の回数は六回である。

(二) 昭和六一年中にハルミ名義で行われた株式取引は、別表五記載のとおりであり、取引株数は合計一五〇〇株、株式売買の回数は二回である。

同年中に池田早智子(以下「早智子」という。)名義で行われた株式取引は別表六記載のとおりであり、取引株数は合計五〇〇株、株式売買の回数は一回である。

(三) 昭和六二年中にハルミ名義で行われた株式取引は、別表七記載のとおりであり、取引株数は合計三万三五〇〇株、株式売買の回数は一二回である。

同年中に池田慶子(以下「慶子」という。)名義で行われた株式取引は、別表八記載のとおりであり、取引株数は合計五万五〇〇〇株、株式売買の回数は一八回である。

である。

同年中に早智子名義で行われた株式取引は、別表九記載のとおりであり、取引株数は合計四万〇七〇〇株、株式売買の回数は一七回である。

5  本件各係争年中に行われた株式取引に係る銘柄別の損益等の明細及び右取引に係る経費

(一) 昭和六〇年中に原告名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<1>記載のとおりであり、信用取引に係る銘柄別の損益及び配当等の各明細は、同<3>及び<4>記載のとおりである。

同年中にハルミ名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<2>のとおりである。

(二) 昭和六一年中に原告名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<5>のとおりであり、信用取引に係る銘柄別の損益及び配当等の各明細は、同<7>及び<8>記載のとおりである。

同年中にハルミ名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<6>記載のとおりである。

(三) 昭和六二年中に原告名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<9>のとおりであり、信用取引に係る銘柄別の損益及び配当等の各明細は、同<13>及び<14>記載のとおりである。

同年中にハルミ、慶子及び早智子の各名義で行われた現物取引に係る銘柄別の損益の明細は、別紙三<10>、<11>及び<12>記載のとおりである。

(四) 本件各係争年中に行われた株式取引に係る経費は、一回の売買につき一〇〇円である。

6  本件各係争年中に行われた株式取引の非事業性

本件各係争年中に行われた株式取引は、いずれも所得税法上の事業には該当しない。

三  本件の争点

1  本件通知の取消しを求める訴えの適否

2  原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数

(一) 被告の主張

(1) 株式売買の回数の算定基準について

所得税法九条一項一一号イ(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、同法施行令二六条一項、二項(昭和六二年一〇月政令第三五六号による改正前のもの)によると、有価証券の譲渡による所得は原則として課税されないが、その年中における株式又は出資の売買の回数が五〇回以上であり、かつ、その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上であるときは、右有価証券の売買による所得は、営利を目的とした継続的取引から生じた所得に該当し、事業所得又は雑所得として課税の対象となるとされている。

右株式等の売買の回数の算定に当たっては、一般の投資家が右売買を証券会社に委託して行った場合には、証券会社が当該委託に基づき行った取引に係る銘柄数又は取引回数のいかんにかかわらず、投資家が証券会社に対して行った委託契約の回数によるのが相当である(昭和四五年七月一日付け直審(所)三〇「所得税基本通達」九-一五〔平成元年一二月六日直所三-一四による改正前のもの〕参照)。

そして、投資家と証券会社との間の委託契約の回数は、銘柄の種類、値段、株数、売付けと買付けの別、注文期間等を要素とする注文の回数に還元することができるというべきである。すなわち、株価は時々刻々変動し、投資家は場の気配によって株式等の売買を決算するものであって、注文の日時が異なれば、売買の価格は異なり、投資家の取引の意思も異なるから、注文の日時を異にする委託契約は、別個の委託契約とみるべきである。また、同一日時に複数の銘柄の株式等の売買を一括して注文した場合は、売付け又は買付けという売買の態様において同じであるから、一つの委託契約とみるべきであるが、同一日時に売付けと買付けの注文をした場合には、両者は、経済的事象として全く異なり、投資家の意思内容が異なるから、別個の委託契約とみるべきである。このことからすれば、注文後、委託契約の要素である銘柄の種類、値段、株数の増減、売付けと買付けの別、注文期間等について変更が行われたときには、当該変更のときに別個の委託契約が締結されたものとみるのが相当である。

(2) 株式売買の回数算定の基礎となるべき資料について

前記所得税基本通達九-一五、昭和四六年一月一四日付け直審(所)二個別通達によると、証券会社は、株式等の売買が一つの委託契約に係るものであることを立証する手段として、売買の委託があった場合には、その都度注文伝票総括表を作成し、これを顧客に交付するものとされているけれども、本件取引に係る注文伝票総括表(乙七、一二)は、必ずしも注文の都度作成されたものではなく、また、その記載にも、注文伝票総括表の発行日が有効期限よりも後の日付となっていたり、一連番号や指値の記載がなかったりする等の不備があり、全体として信憑性に欠けるものといわざるを得ない。したがって、本件においては、原告の株式売買の回数を注文伝票総括表の記載に基づいて計算するのは相当ではなく、委託契約の回数を直截に証明する原資料たる注文伝票に基づいて計算すべきである。

(3) 原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

注文伝票に基づき、本件各係争年中に原告名義で行われた株式売買の回数を計算すると、昭和六〇年分については別表一記載のとおり五二回、昭和六一年分については別表二記載のとおり五二回、昭和六二年分については別表三記載のとおり五一回となる。

なお、右計算に当たっては、注文伝票の有効期限を一か月としたが、注文伝票が火曜日以降に再発行されている場合には、前週の注文が自動的に継続されたものとみることはできないから、いったん当初の委託契約が取り消され、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたものとした。また、注文後、委託に係る株数の減少が行われた場合には、委託契約の内容について重要な要素の変更があったものとして、右株数減少のときに別個の委託契約が締結されたものとした。もっとも、本来、注文が同一日に行われていても、時刻を異にすれば、別個の委託契約というべきであるが、五分程度の範囲内で数回の注文が行われている場合には、原告に有利となるように同一の委託契約とした。

(二) 原告の主張

(1) 株式売買の回数算定の基礎となるべき資料について

前記所得税基本通達九-一五、昭和四六年一月一四日付け直審(所)二個別通達によると、証券会社は、株式等の売買が一つの委託契約に係るものであることを立証する手段として、売買の委託があった場合には、その都度注文伝票総括表を作成した上、これを顧客に交付することとし、注文伝票総括表に記載された内容に基づく売買は、一つの委託契約に基づく売買と判定するものとされている。したがって、原告の株式売買の回数は、注文伝票総括表に基づいて計算すべきであり、同表に記載された内容に従って取引が行われている限り、一つの委託契約に基づく取引とみるのが相当である。

(2) 原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

注文伝票総括表に基づき、本件各係争年中に原告名義で行われた株式売買の回数を計算すると、昭和六〇年分については別表一記載のとおり四一回、昭和六一年分については別表二記載のとおり四四回、昭和六二年分については別表三記載のとおり三五回となる。

なお、原告は、委託の相手方たる岡三証券株式会社(以下「岡三証券」という。)及び山一証券株式会社(以下「山一証券」という。)との間で、委託契約の有効期間を一か月とする旨合意していたのであるから、注文伝票が火曜日以降に再発行されたからといって、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたということはできない。また、注文後、委託に係る株数の減少が行われた場合には、従前の委託契約はそのまま存続し、委託の一部取消しが行われたにすぎないのであるから、右株数減少のときに別個の委託契約が締結されたものとみることはできない。

3  ハルミ、慶子及び早智子の各名義で行われた株式取引による収益の帰属主体

(一) 被告の主張

ハルミは、原告の妻である池田キトエ(以下「キトエ」という。)の実母であり、慶子及び早智子は、原告の実娘であるところ、本件各係争年中にハルミ、慶子及び早智子の各名義(以下「家族名義」という。)で行われた別表四ないし九記載の株式取引は、いずれも原告が自己の収支計算の下に行ったものであるから、右株式取引による収益は原告に帰属するというべきである。

(二) 原告の主張

原告は、ハルミ、慶子及び早智子から、同人らの資金の運用を依頼され、同人らの代理人として同人ら名義で株式取引を行ったにすぎないのであるから、右株式取引による収益は同人ら自身に帰属するというべきである。

4  本件各係争年中に行われた株式取引に係る所得の非課税所得該当性

(一) 被告の主張

原告は、前記2のとおり、本件各係争年中に所得税法施行令二六条二項所定の基準を超える回数及び株数の売買を原告名義で行ったばかりか、家族名義で行った株式取引による収益も前記3のとおり原告に帰属するのであるから、これら取引に係る所得が右基準を超え、所得税の課税対象となることは明らかである。

(二) 原告の主張

原告が本件各係争年中に行った株式売買の回数は、所得税法施行令二六条二項所定の基準を超えるものではないから、右取引による所得は、課税の対象とはならないというべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件通知の取消しを求める訴えの適否)について

前記第二の二の1の事実によると、原告が昭和六二年分の所得税について更正の請求を行ったところ、被告は、本件通知を行った上、その後、さらに本件更正を行ったものであることが認められる。

国税通則法二四条に規定する更正は、納税申告書に記載された課税標準、税額等の計算が、課税庁の調査したところと異なる場合に、当該申告に係る課税標準、税額等を更正する処分であって、右調査結果に基づき課税の要件に係る事実を全体的に見直し、納税義務の総額を確定することを目的とするものであるから、いわゆる増額更正は、単に申告に係る税額に対して新たに納付すべき税額を追加するものではなく、申告によって一応確定した税額を変更し、申告に係る税額を含め、納税義務者が納付すべき税額の総額を確定する効果を有するものと解される。他方、同法二三条四項に規定する更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知は、申告に係る税額等の減額を求める更正の請求に対し、右減額を拒否する処分であって、これにより申告に係る税額等について減額を認めないことを確定する効果を有するものである。

そうすると、増額更正と更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知とは、手続的には別個独立の処分ではあるが、同一の所得税の納税義務に係わり、相互に密接な関連を有するというべきところ、後者が申告に係る税額等の減少のみに係わるのに対し、前者は納付すべき税額全体に係わり、申告に係る税額等を正当でないものとして否定した上、これに増額変更を加えて納付すべき税額の総額を確定するものであるから、実質的には、前者は後者の内容を包摂するものと解される。そうであるとするならば、増額更正と更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知の両処分が行われた場合には、納付すべき税額を争う納税義務者としては、増額更正の取消訴訟を提起すれば足り、これとは別個に更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知を争う訴えの利益はないというべきである。

したがって、本件訴えのうち、本件通知の取消しを求める部分は訴えの利益を欠くというべきであるから、不適法として却下を免れない。

二  争点2(原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数)について

1  株式売買の回数の算定基準について

(一) 所得税法九条一項一一号イ(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)、同法施行令二六条一項(昭和六二年一〇月政令第三五六号による改正前のもの)によると、有価証券の譲渡による所得は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得のみを課税の対象とし、営利を目的とした継続的行為か否かは、有価証券の売買の回数、数量、金額、取引の種類、資金の調達方法、売買のための施設その他の状況に照らして判断するものとされている。そして、同法施行令二六条二項によると、当該年中における株式又は出資の売買の回数が五〇回以上であり、かつ、売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上である場合には、その他の同条一項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、右売買による所得は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得に該当するものとされている。

これらの規定によると、有価証券の譲渡による所得が課税の対象とされるか否かは、株式の売買回数と売買をした株数とによって決せられることになるところ、一般の投資家が証券会社に委託して株式の売買取引を行った場合における株式の売買回数については、委託を受けた証券会社が証券市場において行った取引の回数によるのではなく、投資家が証券会社に対して行った委託契約の回数によって算定するのが相当である(昭和四五年七月一日付け直審(所)三〇「所得税基本通達」九-一五〔平成元年一二月六日直所三-一四による改正前のもの〕参照)。けだし、証券市場においては、投資家の委託自体は一回行われたにすぎなくとも、証券会社の規模あるいはその日の場の状況等により当該委託に基づく証券会社の取引が数回に分けて行われることも珍しくないのであるから、委託を受けた証券会社が行った取引の回数によって株式の売買回数を算定するならば、委託者の予期しない偶然の事情によって株式の売買回数が左右されることになり、株式売買の回数をもって取引の営利性、継続性を根拠付ける指標とした所得税法施行令二六条二項の趣旨に反する結果となるからである。

(二) そこで、投資家と証券会社との間の委託契約の回数の算定基準について検討すると、一般に、委託契約の回数は、銘柄の種類、値段、株数、売付けと買付けの別、注文期間等を要素とする注文の回数に還元することができるというべきである。すなわち、株価は時々刻々変動するものであり、注文の日時が異なれば、売買の価格は異なり、投資家の取引の意思も異なるから、注文の日時を異にする委託契約は、別個の委託契約とみるべきである。また、売付けと買付けとでは、経済的事象として全く異なり、投資家の意思内容が異なるから、たとえ同一日時に売付けと買付けをした場合であっても、委託契約は別個のものとみるべきである。ただ、同一日時に複数の銘柄の株式の売付け又は買付けを一括して注文した場合には、投資家の意思としては売付け又は買付けという一個の意思とみることができるから、一つの委託契約とみるのが相当である(仮に、このような場合に銘柄毎に別個の委託契約があったとみるとすると、同一日時に五〇銘柄以上の株式の売付け又は買付けの委託をしたときには、五〇回以上の委託契約があったものとして、その所得に課税することになるが、一回の取引のみで営利を目的とした継続的行為があったとみるのは不合理であって、前記所得税法施行令二六条二項の趣旨に沿うものとはいい難い。)。

(三) そして、このような株式売買の回数算定の趣旨に鑑みると、委託契約締結後、銘柄の変更、売付け又は買付けの区分の変更、株数の増加及び指値の変更等、当該委託契約の内容について重要な要素の変更が行われたときには、当該変更のときに別個の委託契約が締結されたものとみるのが相当である。

もっとも、この点に関し、被告は、株数の減少も重要な要素の変更に当たり、右株数減少のときに別個の委託契約が締結されたものとみるべきである旨主張するけれども、委託契約締結後、委託に係る株数の減少が行われた場合には、従前の委託契約は残存株数の限度でそのまま存続し、当初の委託に係る売付け又は買付けの一部が取り消されたにすぎないのであるから、右株数減少のときに別個の委託契約が締結されたものとみることはできないというべきであり、被告の右主張は採用の限りではない。

2  株式売買の回数算定の基礎となるべき資料について

(一) 次に、株式売買の回数を判定する際の基礎となるべき資料について検討する。

昭和四五年七月一日付け直審(所)三〇「所得税基本通達」九-一五、昭和四六年一月一四日付け直審(所)二個別通達によると、証券会社は、株式等の売買が一つの委託契約に係るものであることを立証する手段として、売買の委託があった場合には、その都度注文伝票総括表を作成した上、これを顧客に交付するものとされている。そうすると、これら通達の趣旨に沿って注文伝票総括表が注文の都度作成されている場合には、注文伝票総括表に記載された内容に従って行われた取引は、一つの委託契約に基づく取引であるとみるのが合理的である。

もっとも、この点に関し、被告は、本件取引に係る注文伝票総括表(乙七、一二)は必ずしも注文の都度作成されたものではないし、その記載にも不備があり、信憑性に欠けるといわざるを得ないから、本件においては、注文伝票総括表によって委託契約の回数を計算するのは相当ではなく、原資料たる注文伝票に基づいて計算すべきである旨主張する。

そこで、本件取引に係る注文伝票総括表(乙七、一二)とその原資料たる注文伝票(乙三五の一ないし六三、三六の一ないし六五、三七の一の一、二、三七の二の一ないし六、三七の三の一、二、三七の四の一ないし六、三七の五の一ないし四、三七の六の一、二、三七の七、八、三七の九の一ないし九、三七の一〇の一ないし三、三七の一一、三七の一二の一ないし三、三七の一三の一ないし四、三七の一四ないし二〇、三七の二一の一ないし五、三七の二二、三七の二三の一ないし五、三七の二四の一、二、三七の二五ないし二七、三七の二八の一、二、三七の二九の一、二、三七の三〇及び三一、三七の三二の一ないし六、三七の三三の一、二、三七の三四の一ないし五、三七の三五及び三六、三七の三七の一ないし七、三七の三八の一ないし五、三七の三九の一、二、三七の四〇及び四一、三七の四二の一、二、三七の四三、三七の四四の一、二、三七の四五及び四六、三七の四七の一ないし三、三七の四八、三七の四九の一、二、三七の五〇ないし五二、三七の五三の一、二、三七の五四の一ないし三、三七の五五、三七の五六の一、二、三七の五七の一ないし三、三七の五八ないし六三、三九の一、二、四〇ないし四五、四六の一、二、四七、四八の一ないし六、四九、五三の二ないし六二、五四の二、五五の二、三)とを子細に比較すると、確かに、右注文伝票総括表の中には、注文伝票の記載から明らかに注文日時の異なる複数の注文を一括して掲載しているものが存在することを背認することができる。証拠(乙三八、五〇、五二)によると、証券会社が顧客から注文を受けた場合の通常の取扱としては、まず、注文伝票を作成し、右伝票上に正確な注文日時を記載するものとされていることが認められるから、このように注文日時の異なる複数の注文が一通の注文伝票総括表に掲載されている場合には、証券会社が顧客から幾度かにわたって注文を受けた後、注文日時の異なるこれら複数の注文を事後的に適宜、その判断で一通の注文伝票総括表にまとめて記載したものと推認するのが相当である。そうすると、右のような場合に、注文伝票総括表に基づいて委託契約の回数を計算するならば、証券会社が注文伝票総括表をどのように記載するかという委託者の意思とは何ら関係のない全くの偶然ともいうべき事情によって委託契約の回数、ひいては株式の売買回数が左右されることになり、著しく合理性を欠くというべきである。また、前記通達の趣旨についてみても、前記通達は、証券会社が注文の都度、注文伝票総括表を作成することを前提として、注文伝票総括表に記載された内容に基づく売買は、一つの委託契約に基づくものと考えられるということを明らかにしたものにすぎず、注文日時の異なる複数の注文であっても、およそ一通の注文伝票総括表に記載されている限り、一つの委託契約とみるべきであるという趣旨までを含むものとは到底考えられない。

そうであるならば、注文伝票の記載によると、注文日時の異なる複数の注文が一通の注文伝票総括表に掲載されている場合には、顧客の意思としては、右注文時毎に別個の取引意思に基づく委託契約を締結したものと解することができるから、右注文伝票総括表によって株式の売買回数を計算するのではなく、注文日時を正確に記録した原資料たる注文伝票によって計算するのが相当である。したがって、本件において、注文日時の異なる複数の注文が一通の注文伝票総括表に掲載されている場合には、注文伝票に記載された注文日時に従って、当該注文日時毎に別個の委託契約が締結されたものとして売買回数を計算することとする。

もっとも、本件においては、注文伝票に記載された注文時刻は異なるものの、その差が僅か数分程度にすぎない例がみられるところ、このような場合には、一回の通話が継続中に順次注文が行われた可能性があることも否定しさることはできない。そこで、注文伝票に記載された注文時刻が異なるものの、その差が五分程度の範囲内にあるものについては、同一の機会に注文が行われた可能性があるものとして、売買回数を一回と計算することとする。

(二) なお、被告は、本件取引に係る注文伝票総括表(乙七、一二)は信憑性を欠き、株式売買の回数を算定する際の資料とすることはできない旨主張するけれども、前記一で指摘した問題点は、極く一部の注文伝票総括表にみられるにすぎないのみならず、右注文伝票総括表(乙七、一二)を注文伝票と照らし合わせることによって、問題の有無を正確に把握することが十分可能であるから、右注文伝票総括表(乙七、一二)をもって、およそ信憑性を欠き、株式売買の回数算定の基礎となるべき資料として用いることができないものであるとまでいうことは到底できない。また、被告は、右注文伝票総括表(乙七、一二)の中に、一連番号や指値の記載がないものが存在することをもって記載上の不備である旨主張するけれども、前記通達も、証券会社に対して指値の記載までを求めるものではないし、一連番号や指値の記載がないからといって、顧客の委託意思を判断する際の資料にはなり得ないということもできないから、被告の右主張は採用の限りではない。

一方、原告は、本件取引に係る注文伝票総括表として、甲六及び一四を援用するけれども、右各甲号証は本件更正を受けた後、原告が岡三証券及び山一証券に指示し、その主張に沿って作成させた書面であって、本件各係争年当時に作成された前記注文伝票総括表(乙七、一二)とは記載内容を異にするものであることは、原告の主張自体から明らかであるから、右各甲号証を株式売買の回数算定の基礎となるべき資料として用いることは到底できない。

(三) さらに、被告は、注文伝票の有効期間を問題にするので、この点について検討する。

証拠(乙五〇、五二)によると、原告は、岡三証券及び山一証券との間で、本件取引に先立ち、委託契約の有効期間を一か月とする旨合意していたことが認められる。そうすると、原告が右各証券会社に対して行った売付け又は買付けの注文は、その後原告により取り消されない限り、一か月間継続するものと考えるのが相当である。

この点に関し、被告は、注文伝票が火曜日以降に再発行されている場合には、前週の注文が自動的に継続されたものとみることはできず、いったん当初の委託契約が取り消され、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたものとみるべきである旨主張するけれども、このような場合に当初の委託契約が取り消されたものと認めるに足りる証拠はなく、むしろ右認定事実によると、原告の注文は週が変わっても一か月間は継続するものというべきであるから、被告の右主張は採用の限りではない。

3  原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

(一) 昭和六〇年中に原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

(1) 前記第二の二の3の(一)の事実に、証拠(乙七、三五の一ないし六三、四一ないし四三、四八の一ないし六、四九)を総合すると、原告は、昭和六〇年中に岡三証券に委託して原告名義で取引株式数合計四一万三〇〇〇株の売買を行ったこと、右売買に係る注文は別表一の「注文」欄記載のとおり行われ、同表の「成立」欄記載のとおり取引が成立したことを認めることができる。

(2) そこで、右認定の取引状況に、前記2で認定説示した基準をあてはめて昭和六〇年中に原告名義で行われた株式取引における売買回数を計算すると、別表一の「売買回数」欄記載のとおり四四回となる。

もっとも、原、被告は、それぞれ同表の「原告の主張する売買回数」「被告の主張する売買回数」各欄のとおり売買回数を計算すべきである旨主張するので、以下、問題となる取引について個別に検討する。

<1> 取引回数番号五の取引について、被告は、昭和六〇年一月二一日に株数が五〇〇〇株から三〇〇〇株に変更されているのであるから、右変更の時点で新たな委託契約が締結されたものとして売買回数を計算すべきである旨主張するけれども、株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<2> 取引回数番号一七及び一八の取引について、原告は、併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三五の一七)によると、同番号一七の取引については昭和六〇年四月四日九時五五分に指値を二二九円とする旨の変更が行われ、同番号一八の取引については同日一〇時二五分に指値を二三〇円とする旨の変更が行われていることが認められるから、右各時点でそれぞれ新たな委託契約が締結されたというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

<3> 取引回数番号二四及び二五の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<4> 取引回数番号三二の取引について、原告は、このうち、神戸製鋼所株の取引と川崎製鉄株の取引は併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三五の三二の一、二、四〇)によると、右神戸製鋼所株については、昭和六〇年七月四日一四時四六分に最初の注文が行われた後、同月一八日八時一九分に注文が全部取り消され、同月二二日九時五五分に改めて二〇〇〇株の売付注文がされていることが認められるから、右再注文により新たな委託契約が締結されたというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

<5> 取引回数番号三四の取引について、原告は、同番号三三の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三五の三一の一、二、三五の三三)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<6> 取引回数番号四〇の取引について、被告は、金曜日である昭和六〇年七月二六日に注文伝票が再発行されているので、右時点で新たな委託契約が締結されたとみるべきである旨主張するけれども、注文伝票が火曜日以降に再発行されているからといって、当初の委託契約が取り消され、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたものとみることができないことは前記2(三)で説示したとおりであり、被告の右主張は採用することができない。

<7> 取引回数番号四七、四八、五〇の各取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<8> 取引回数番号六一の取引について、被告は、火曜日である昭和六〇年一二月一〇日に注文伝票が再発行されているので、右時点で新たな委託契約が締結されたとみるべきである旨主張するけれども、注文伝票が火曜日以降に再発行されているからといって、当初の委託契約が取り消され、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたものとみることができないことは前記2(三)で説示したとおりであり、被告の右主張は採用することができない。

(二) 昭和六一年中に原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

(1) 前記第二の二の3の(二)の事実に、証拠(乙七、三六の一ないし六五、四四及び四五、四六の一、二)を総合すると、原告は、昭和六一年中に岡三証券に委託して原告名義で取引株式数合計四七万九〇〇〇株の売買を行ったこと、右売買に係る注文は別表二の「注文」欄記載のとおり行われ、同表の「成立」欄記載のとおり取引が成立したことを認めることができる。

(2) そこで、右認定の取引状況に、前記2で認定説示した基準をあてはめて昭和六一年中に原告名義で行われた株式取引における売買回数を計算すると、別表二の「売買回数」欄記載のとおり五〇回となる。

もっとも、原、被告は、それぞれ同表の「原告の主張する売買回数」「被告の主張する売買回数」各欄のとおり売買回数を計算すべきである旨主張するので、以下、問題となる取引について個別に検討する。

<1> 取引回数番号一〇の取引について、原告は、同番号九の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三六の九、一〇)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<2> 取引回数番号一二のうち神戸製鋼所株の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するところ、右主張は、前記1(三)で説示したとおり失当である。もっとも、注文伝票(乙三六の一一の一ないし四、三六の一二の一ないし六)によると、右取引の注文日時は、昭和六一年三月二七日一二時三〇分であって、同日八時三〇分に注文された同番号一一、一三及び一四の取引とは注文時刻を異にすることが認められるから、両者は別個の委託契約に基づくものとして、売買回数を計算するのが相当である。

<3> 取引回数番号一五取引について、被告は、注文伝票(乙三六の一五)の注文日時欄には昭和六一年三月二七日と記載されているにすぎず、注文時刻が不明であるから、同日八時三〇分に注文された同番号一一ないし一四の取引や同日一二時三〇分に注文された同番号の一六の取引とは別個に注文されたものとして、売買回数を計算すべきである旨主張する。

しかしながら、証拠(乙七、三六の一一の一ないし四、三六の一二の一ないし六、三六の一三の一、二、三六の一四の一、二、三六の一五、一六)によると、昭和六一年三月一七日には、二通の注文伝票総括表(乙七のうち、一連番号が二四六のものと二四九のもの)が発行されていて、そのうち、一連番号二四六の注文伝票総括表には、同日八時三〇分に注文された取引が、一連番号二四九の注文伝票総括表には、同日一二時三〇分に注文された取引がそれぞれ掲載されているところ、取引回数番号一五の取引は、一連番号二四九の注文伝票総括表に掲載されていることが認められるから、右取引は、同日一二時三〇分に注文されたものと推認するのが相当である。そうすると、右取引は、取引回数番号一六の取引と同時に注文されたものとして、売買回数を計算すべきであり、被告の右主張は採用することができない。

<4> 取引回数番号一六の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<5> 取引回数番号二六の取引について、原告は、同番号二五の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三六の二六の一)によると、同番号二六の取引については、昭和六一年七月一日一四時三四分に最初の注文が行われた後、同日一四時五三分に注文が全部取り消され、同月二日八時四五分に改めて一〇〇〇株の売付注文がされていることが認められるから、右再注文により新たな委託契約が締結されたというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

<6> 取引回数番号二八のうちの山下新日本汽船株の取引について、原告は、同番号二七、二八のうちの日新製鋼株及び二九の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三六の二七、三六の二八の一、二、三六の二九の一、二、三六の三〇)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<7> 取引回数番号三五の取引について、原告は、同番号三四の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三六の三五の一ないし八、三六の三六)によると、同番号三五の取引の注文日時は昭和六一年七月二一日一二時五〇分であって、同日一二時一〇分に注文された同番号三四の取引とは、注文時刻を異にすることが認められるから、両者は別個の委託契約に基づくものとして、売買回数を計算するのが相当である。

なお、注文伝票総括表(乙七のうち、一連番号が二六九のもの)によると、同番号三五の取引は、同番号三四の取引と一括して記載されているけれども、注文日時の異なる複数の注文が一通の注文伝票総括表に掲載されている場合には、注文伝票に記載された注文日時に従って、当該注文日時毎に別個の委託契約が締結されたものとして売買回数を計算すべきであることは前記2(一)で説示したとおりである。

<8> 取引回数番号三九の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<9> 取引回数番号四二の取引について、原告は、同番号四一の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票伝票番号(乙三六の四三の一、二、四六の一、二)によると、同番号四二の取引については、昭和六一年八月二二日八時三〇分に最初の注文が行われたものの、同月二五日九時に注文が全部取り消された上で、同日九時三分に改めて五〇〇〇株の売付信用取引注文が行われ、さらに同年九月二日八時四〇分に信用取引から現物取引に変更されていることが認められるから、右変更により新たな委託契約が締結されたというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

<10> 取引回数番号六〇の取引について、原告は、同番号五九の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三六の六〇、三六の六一)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

(三) 昭和六二年中に原告名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

(1) 前記第二の二の3の(三)の事実に、証拠(乙七、一二、三七の一の一、二、三七の二の一ないし六、三七の三の一、二、三七の四の一ないし六、三七の五の一ないし四、三七の六の一、二、三七の七、八、三七の九の一ないし九、三七の一〇の一ないし三、三七の一一、三七の一二の一ないし三、三七の一三の一ないし四、三七の一四ないし二〇、三七の二一の一ないし五、三七の二二、三七の二三の一ないし五、三七の二四の一、二、三七の二五ないし二七、三七の二八の一、二、三七の二九の一、二、三七の三〇及び三一、三七の三二の一ないし六、三七の三三の一、二、三七の三四の一ないし五、三七の三五及び三六、三七の三七の一ないし七、三七の三八の一ないし五、三七の三九の一、二、三七の四〇及び四一、三七の四二の一、二、三七の四三、三七の四四の一、二、三七の四五及び四六、三七の四七の一ないし三、三七の四八、三七の四九の一、二、三七の五〇ないし五二、三七の五三の一、二、三七の五四の一ないし三、三七の五五、三七の五六の一、二、三七の五七の一ないし三、三七の五八ないし六三、四七)を総合すると、原告は、昭和六二年中に岡三証券及び山一証券に委託して原告名義で取引株式数合計八一万九〇〇〇株の売買を行ったこと、右売買に係る注文は別表三の「注文」欄記載のとおり行われ、同表の「成立」欄記載のとおり取引が成立したことを認めることができる。

(2) そこで、右認定の取引状況に、前記2で認定説示した基準をあてはめて昭和六二年中に原告名義で行われた株式取引における売買回数を計算すると、別表三の「売買回数」欄記載のとおり四五回となる。

もっとも、原、被告は、それぞれ同表の「原告の主張する売買回数」「被告の主張する売買回数」各欄のとおり売買回数を計算すべきである旨主張するので、以下、問題となる取引について個別に検討する。

<1> 取引回数番号一の取引及び同番号二の取引のうちの小松製作所株の取引について、被告は、火曜日である昭和六二年一月一三日に注文伝票が再発行されているので、右時点で新たな委託契約が締結されたとみるべきである旨主張するけれども、注文伝票が火曜日以降に再発行されているからといって、当初の委託契約が取り消され、右再発行の日時に新たな委託契約が締結されたものとみることができないことは前記2(三)で説示したとおりであり、被告の右主張は採用することができない。

<2> 取引回数番号一四及び一五の取引について、原告は、同番号一二の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の一二の一ないし三、三七の一三の四、三七の一四、三七の一五)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<3> 取引回数番号二〇の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<4> 取引回数番号二二の取引について、原告は、同番号二一の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の二一の一ないし五、三七の二二)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<5> 取引回数番号二四の取引のうち、アマダ株の取引について、被告は、注文後、株数の減少が行われているのであるから、右減少時に新たな委託契約が締結された旨主張するけれども、株数の減少を株数の減少をもって別個の委託契約の締結とみることができないことは、前記1(三)で説示したとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

<6> 取引回数番号二六の取引について、原告は、同番号二七ないし二九の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票総括表(乙一二のうち、昭和六二年五月一二付けのもの)及び注文伝票(乙三七の二六)によると、同番号二六の取引については、最初、現物取引で注文が行われた後、信用取引に変更されたことが認められるから、右変更の時点で新たな委託契約が締結されたというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

<7> 取引回数番号三一ないし三六の取引について、原告は、これらを併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の三一、三七の三二の一ないし六、三七の三三の一、二、三七の三四の一ないし五、三七の三五、三七の三六)によると、同番号三一の取引及び同番号三二のうちのユニチカ株の取引については、昭和六二年五月二九日八時四五分から四七分にかけて、同番号三二のその余の取引、同番号三三の取引、同番号三四のうちの指値を八二二円とするアマダ株以外の取引及び同番号三五の取引については同日九時に、同番号三四のうちのうちの右アマダ株の取引及び同番号三六の取引については同日九時五〇分から五二分にかけてそれぞれ注文されたものであることが認められるから、これらの取引については、右注文時刻毎に三回の委託契約が締結されたものとみるのが相当である。

なお、注文伝票総括表(乙一二のうち、昭和六二年五月二九日付けのもの)によると、これら各取引は、一括して記載されているけれども、注文日時の異なる複数の注文が一通の注文伝票総括表に掲載されている場合には、注文伝票に記載された注文日時に従って、当該注文日時毎に別個の委託契約が締結されたものとして売買回数を計算すべきであることは前記2(一)で説示したとおりである。

<8> 取引回数番号三八ないし四一の取引について、原告は、これらを併せて一回の売買とみるべきである旨主張するところ、注文伝票(乙三七の三八の一ないし五、三七の三九の一、二、三七の四〇、三七の四一)によると、これらの取引は、昭和六二年六月二四日八時三一分から三五分にかけて注文されたものであることが認められるから、同一機会に締結された一個の委託契約に基づくものとみるのが相当である。

なお、被告は、取引回数番号四〇の取引は注文後、信用取引から現物取引に変更されているから、右変更時に新たな委託契約が締結されたものとみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の四〇)の記載からは、単なる取引区分の書き間違いが訂正されたにすぎないのか、あるいは、注文後、右区分の変更が指示されたのか詳らかではなく、他に、右変更を裏付ける証拠もみあたらないから、右変更が行われたと認めるには足りず、被告の右主張は採用することができない。

<9> 取引回数番号四二ないし四六の取引について、原告は、これらを併せて一回の売買とみるべきである旨主張するのに対し、被告は、五回と主張する。

注文伝票(乙三七の四二の一、二、三七の四三)によると、取引回数番号四二及び四三の取引は、昭和六二年七月六日一一時五三分から五四分にかけて注文されたものであることが認められるから、同一機会に締結された一個の委託契約に基づくものとみるのが相当である。

また、注文伝票(乙三七の四四の一、二、三七の四五)によると、取引回数番号四三ないし四五の取引は、いずれも注文から一か月以上経過した後にはじめて取引が成立していることが認められ、前記2(三)で認定したとおり、原告が右各取引を委託した山一証券との間で、予め委託契約の有効期間を一か月とする旨合意していたことからすれば、右各取引については、この間に再度委託契約が締結されたものと推認すべきであるところ、本件全証拠によっても、右再注文の時期は詳らかではなく、右各取引につき別個に再注文が行われたと認めるには足りないから、一個の再注文があったものとして、売買回数を計算するのが相当である。

さらに、注文伝票(乙三七の四六)によると、取引回数番号四六の取引は、注文から二か月以上経過した後にはじめて取引が成立していることが認められるから、同番号四三ないし四五の取引とは別個の委託契約に基づくものとみるのが相当である。

<10> 取引回数番号四八の取引について、原告は、同番号四二ないし四六の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の四二の一、二、三七の四三、三七の四四の一、二、三七の四五、三七の四六)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

<11> 取引回数番号五五の取引については、原告は、同番号五三の取引と併せて一回の売買とみるべきである旨主張するけれども、注文伝票(乙三七の五三の一、二、三七の五五)によると、両者の注文日時は異なるから、原告の右主張は採用することができない。

三  争点3(ハルミ、慶子及び早智子の各名義で行われた株式取引による収益の帰属主体)について

1  前記第二の二の4の(一)ないし(三)の事実に、証拠(甲一、三、五、七、一七の二の一、二、一八の一ないし五、一九のないし二三の各一、二、二四の一の一ないし三、二四の二の一ないし三、二七ないし二九の各一、二、乙一、六、八ないし一一、一三ないし三三、三四の一、三四の二の一ないし三一、五二、五三の一ないし六二、五四の二、五五の二、三、五六の二の一ないし七、五六の三の一、二、五六の四の一ないし六五、五六の五、五七の二の一ないし三、五七の三の一、二、五七の四の一ないし一六、五七の五、五八の二の一ないし四、五八の三の一ないし四、五八の四の一ないし三七、五九の二の一、二、五九の三、五九の四の一ないし六、六〇の二の一ないし四、六〇の三のの一ないし四、六〇の四の一ないし八、六一の二、三、六一の四の一ないし三、六二の二、六二の三の一、二、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 家族名義で行われた株式取引の原資等について

(1) 本件各係争年中にハルミ名義で行われた株式取引に係る売買代金の入出金は、別紙四1記載のとおりであり、その殆どが住友銀行今里駅前出張所及び近畿相互銀行生野支店のハルミ名義の普通預金口座を通じて行われている。右各普通預金口座をはじめとするハルミ名義の預金口座では、別紙五1記載のとおり、原告名義の預金口座から繰り返し一〇〇万円前後の金員が入出金されているほか、昭和六二年八月二七日には、慶子名義の預金口座に対する八四万〇三七四円の出金が行われ、さらに、ハルミの死亡後である昭和六三年四月一八日には、原告が営む酒類販売業に係る小切手金六〇万円の振込入金も行われている。昭和五九年から昭和六二年までの間に原告名義の預金口座からハルミ名義の右各預金口座に入出金された金員は、入金が合計一四六三万二六四三円、出金が合計一一二二万四〇六三円であって、三〇〇万円以上の差額が生じているが、右差額が精算された形跡は見当たらない。

ハルミ名義の右各預金の原資は、詳らかではないが、原告は、一〇年以上前に、ハルミから、預金通帳及び銀行届出印を手渡された上、右各預金を家業である酒類販売業及び不動産賃貸業の事業資金等に充てるようその処分運用一切を任せられ、以来、原告が自己の意思に基づき右各預金を管理運用し、何らハルミに相談することなく、その一存でこれを右家業の事業資金に支出してきた。因みに、原告は、昭和五九年から昭和六二年までの間に、別紙六記載のとおり、右各預金口座から合計一〇三回、総額四三九六万七四三八円に及ぶ入金と合計二〇二回、総額四五五〇万二七九三円に及ぶ出金を行っており、この間、ハルミが右各預金を自己のために費消したことは一度もなかった。また、ハルミは、昭和六三年四月八日に死亡したが、ハルミの実娘である原告の妻キトエは、右各預金について相続税の確定申告をしていない。

なお、別紙六記載のハルミ名義の預金口座のうち、住友銀行今里支店及び兵庫相互銀行新深江支店の各預金口座は、原告がハルミに無断で開設したもので、原告は、ハルミの死亡後にも、東洋信託銀行東大阪支店においてハルミ名義の信託口座を開設する等、その意のままに同人の名義を使用してきた。

(2) 本件各係争年中に慶子名義で行われた株式取引に係る売買代金の入出金の状況は、別紙四2記載のとおりであり、その一部については東洋信託銀行東大阪支店及び住友銀行今里駅前出張所の慶子名義の普通預金口座を通じて行われているが、その余については詳らかではない。右各普通預金口座をはじめとする慶子名義の預金口座では、昭和五九年から昭和六二年までの間に、別紙五2記載のとおり、原告名義の預金口座から合計五回、総額四三二万円が、早智子名義の預金口座から合計二回、総額一四六万五七四五円が、ハルミ名義の預金口座から合計一回、総額八四万〇三七四円がそれぞれ入金されているが、他方、慶子名義の右各預金口座からの出金は、原告名義の預金口座に対する合計六回、総額五〇三万〇九五六円にとどまっている。このうち、慶子名義の右各預金口座と原告名義の預金口座との間では、相互に対応する入出金が行われていることが多いが、別紙五2の取引番号一二記載の出金については、これに見合う入金はないし、慶子と早智子及びハルミの間において、差額の精算が行われた形跡も見当たらない。

慶子名義の右各預金口座のうち、協和銀行今里支店ないし住友銀行今里駅前出張所の預金口座には、慶子の勤務先から毎月一〇万円ないし一四万円程度の金員が給与として振り込まれていて、これが右各預金の原資の一部となっているが、その余の原資は詳らかではない。また、右給与についても、昭和五九年一一月までは振込額の四〇パーセント、同年一二月からは六〇パーセントに当たる金員が毎月引き出されている。

これら慶子名義の預金口座は、すべて原告が開設したもので、毎月引き出された右給与部分以外は全て原告がその意思に基づいて管理運用し、何ら慶子に相談することなく、その一存で自己の営む酒類販売業及び不動産賃貸業の事業資金として利用してきた。因みに、原告は、昭和五九年から昭和六二年までの間に、別紙六記載のとおり、右各預金口座から合計一八九回、総額三七四四万九三九七円に及ぶ入金と合計三二七回、総額三九四七万六九一七円に及ぶ出金を行っており、この間、慶子が右各預金を自己のために費消したことは一度もなかった。

なお、原告は、昭和六二年八月に慶子が結婚した後も、従前どおり慶子名義の預金口座の管理運用を継続しているし、さらに、改姓後の慶子名義で預金口座を開設した上、右預金を利用して慶子名義の株式取引を行う等、その意のままに同人の名義を使用してきた。

(3) 本件各係争年中に早智子名義で行われた株式取引に係る売買代金の入出金の状況は、別紙四3記載のとおりであり、一部の入出金は住友銀行今里支店、同銀行今里駅前出張所及び近畿相互銀行生野支店の早智子名義の普通預金口座を通じて行われているが、これ以外に慶子名義の預金口座からの入金もあり、また、かなりの部分については詳らかとなっていない。右各普通預金口座をはじめとする早智子名義の預金口座では、昭和五九年から昭和六二年までの間に、別紙五3記載のとおり、原告名義の預金口座から合計一四回、総額一一五一万三六七〇円が入金され、昭和六一年九月三〇日には、原告が営む酒類販売業に係る小切手金二万三六七〇円も振り込まれているが、他方、早智子名義の右各預金口座からの出金は、原告名義の預金口座に対する合計六回、総額八〇九万円及び慶子名義の預金口座に対する合計二回、総額一四六万五七四五円にとどまっている。このうち、早智子名義の右各預金口座と原告名義の預金口座との間では、相互に対応する入出金が行われたこともあるが、別紙五3の取引番号一ないし四、一一、一四、一七記載の入金については、これに見合う出金はないし、早智子と慶子の間において、差額の精算が行われた形跡も見当たらない。

早智子名義の右各預金口座のうち、住友銀行今里支店の預金口座には、早智子の勤務先から毎月一一万円ないし一四万円程度の金員が給与として振り込まれていて、これが右各預金の原資の一部となっているが、その余の原資は詳らかではない。また、右給与についても、昭和六二年六月までは振込額の四〇パーセント、同年七月からは六〇パーセントに当たる金員が毎月引き出されている。

これら早智子名義の預金口座は、すべて原告が開設したもので、毎月引き出された右給与部分以外は全て原告がその意思に基づいて右各預金を管理運用し、何ら早智子に相談することなく、その一存で自己の営む酒類販売業及び不動産賃貸業の事業資金として利用してきた。因みに、原告は、昭和五九年から昭和六二年までの間に、別紙六記載のとおり、右各預金口座から合計四〇四回、総額一億一一五四万一九一六円に及ぶ入金と合計六三七回、総額一億一五三万二七八四円に及ぶ出金を行っており、この間、早智子が右各預金を自己のために費消したことは一度もなかった。

(4) これら家族名義の預金に係る預金通帳及び銀行届出印は、すべて原告が、自己の経営する酒類販売業に関する帳簿類と一緒に保管しており、右各預金の名義人であるハルミ、慶子及び早智子自身が右各預金の入出金に携わったことは一度もなかった。原告名義及びこれら家族名義の各預金口座相互における金員の出入りは、専ら原告の意思に基づいて行われたものであって、ハルミ、慶子及び早智子は、原告から右入出金につき了解を求められたことも、報告を受けたこともなかった。また、原告自身、右入出金の状況を記載した帳簿をつける等、名義人毎にその資産内容を特定する手段を一切講じていなかった。

(二) 家族名義で行われた株式取引の具体的状況等について

(1) 本件各係争年中に行われた家族名義による株式取引は、全て原告が証券会社との間で取引開始の手続をとった上、自らの意思と判断に基づき直接証券会社に注文して行ったもので、名義人らが関与したことは一度もなかった。当時、ハルミは八〇歳を超える高齢者、慶子及び早智子は、会社勤めを始めて間もない二〇代前半の女性であって、いずれも株式取引について何らの知識、経験も持ち合わせておらず、原告に対して株式取引の状況を問い合わせることもなかった。また、原告においても、同人らに対し、右取引の了解を求めたり、その結果を報告したりすることはなかった。

(2) 原告は、昭和六〇年七月三一日、ハルミ名義の小林産業株二〇〇〇株を自己の岡三証券における信用取引口座の保証金代用証券として差し入れた上、同年一〇月一八日、うち一〇〇〇株を自己の口座において売却した。また、原告は、昭和六二年九月三日、慶子名義で買い付けたニチヤス株二〇〇〇株をハルミ名義の口座において同人名義の株式と併せて売却した。さらに、原告は、昭和六一年一〇月、ハルミ及び早智子の各名義で買い付けたソニー株合計一〇〇〇株を自己名義に書き換えた上、右株式に係る配当金二万二〇〇〇円を受領し、これを昭和六二年分の確定申告において自己の所得として申告した。これら株式名義の変更については、名義人らが原告から了解を求められたり、報告を受けたりしたことはないし、これに伴う精算も一切行われていない。

2  右認定事実によると、<1>本件各係争年中に家族名義で行われた株式取引は、その多くが株式名義人の預金口座において決済されているものの、決済関係が不明のものも少なくなく、株式名義人以外の預金口座から買付代金が支出されたこともあること、<2>これら家族名義の預金口座においては、原告あるいは他の名義人の預金口座との間で頻繁に入出金が行われているが、右入出金によって生じた資金の過不足は、精算されないままとなっていること、<3>ハルミ名義の預金は、原告が同人から家業の事業資金に充てるようその処分を任せられ、自己の意思でその事業資金として利用してきたものであるし、慶子及び早智子名義の預金についても、同人らの振込に係る給料のうち、原告の運用に委ねられた部分は、右両名がそれぞれ生活費として家に入れる趣旨であったとみることができ、右部分を含む預金全てを原告において意のままに事業資金として利用してきたものであって、これにハルミ、慶子及び早智子の年齢、収入を併せ考慮すると、右各預金口座において動かされた数千万円ないし一億円以上もの金員が同人らの出捐に係るものとは到底考え難いこと、<4>これら家族名義の預金は、原告が自ら口座を開設し、その意思に基づき一切の管理運用を行っていたもので、ハルミ、慶子及び早智子がこれを費消したことは一度もなかったばかりか、原告は、右各預金から自己の事業資金を支出し、その意のままに金員を動かしていたにもかかわらず、同人らに対する報告は勿論、各人毎にその資産内容を特定する手段すら講じていなかったこと、<5>本件各係争年中における家族名義の株式取引は、原告がその意思と判断に基づき証券会社に委託して行ったもので、名義人たるハルミ、慶子及び早智子に対しては、取引結果の報告さえ行われていなかったのに対し、原告は、家族名義の株式を自己名義に書き換えた上、その配当金を自己の所得として確定申告する等、右取引の結果が自己に帰属するとの認識を有していたことを窺わせる行動をとっていること等の諸点を指摘することができる。

これら諸点に照らすと、原告は、これら家族名義の預金を自己に帰属する金員であるという認識に基づき、一括して自己のために管理運用していたというべきであり、本件各係争年中における家族名義による株式取引も、原告が、右管理運用に係る金員を原資として、自己の計算で行ったものと認めるのが相当である。

そうすると、本件各係争年中における家族名義による株式取引は、原告自身の収支計算のもとに行われたものであるから、右取引に係る収益は、原告に帰属するというべきである。

3  もっとも、原告は、家族名義による株式取引の原資となった右各預金は、名義人それぞれにおいてその資金を出捐したものである旨主張し、これに沿う証拠として原告本人尋問の結果を援用する。

しかしながら、この点に関する原告の供述は、「ハルミ名義の預金の原資としては、岩崎貴金属から返還を受けた約三〇〇万円のほか、原告が同人から預かっていた金員がある。」「慶子及び早智子名義の預金は、同人らが子供の頃のお年玉やお祝いを貯めていったものである。」「慶子及び早智子名義の預金の原資は、専従者給与がかなりの金額を占めている。」「慶子は、おじさんから五〇〇万円程もらったこともある。」等というもので、専ら曖昧かつ茫漠たる供述に終始し、右各預金の資金源を具体的に供述するものではないのみならず、前記1一(1)ないし(3)、1二(1)で認定したとおり、本件各係争年当時、ハルミは八〇歳以上の老齢者、慶子及び早智子は僅か月一〇万円余りの給与支給を受けていた女子会社員にすぎず、右各預金口座において数千万円ないし一億円以上もの金員を動かすだけの収入、資力があったとは到底考え難いというべきであるから、右供述部分をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。

また、原告は、原告とハルミ、慶子及び早智子の間において、預金や株式名義等の混交がみられる点について、原告と同人らの間の賃借関係に基づくものである旨主張するけれども、これを裏付ける証拠は全く存在しない。

さらに、原告は、ハルミ、慶子及び早智子の委任に基づき同人ら名義の株式取引を行った旨主張し、これに沿う証拠として甲一五及び一六(山一証券の担当者である前芝和宏の陳述書)、乙五二(同人の質問てん末書)並びに原告本人尋問の結果を援用する。

しかしながら、証拠(甲六、一四ないし一六、乙五二)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件更正を受けた後、山一証券の担当者である前芝和宏に繰り返し面会を求め、自己の主張に沿うよう注文伝票総括表を書き改めさせたことが認められるから、本件更正後に作成された前記甲一五及び一六(前芝和宏の陳述書)並びに乙五二(同人の質問てん末書)をそのまま鵜呑みにすることはできない。また、この点に関する原告の供述も、「私は、娘たちにきつく株式の売買をしてはいけないというように言っていた。」「株式売買を委任されたのがいつ頃であったか記憶はない」等というおよそ信憑性に欠ける内容であって、これをそのまま信用するわけにはいかない。

四  争点4(本件各係争年中に行われた株式取引に係る所得の非課税所得該当性)について

1  前記第二の二の3及び4の事実に、前記第三の二及び三で認定説示したところを併せ考えると、原告は、昭和六〇年中に売買回数合計五〇回、取引株式数合計四三万株の株式売買を行ったものと認められるから、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当し、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得として課税の対象となる。

2  前記第二の二の3及び4の事実に、前記第三の二及び三で認定説示したところを併せ考えると、原告は、昭和六一年中に売買回数合計五三回、取引株式数合計四八万一〇〇〇株の株式売買を行ったものと認められるから、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当し、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得として課税の対象となる。

3  前記第二の二の3及び4の事実に、前記第三の二及び三で認定説示したところを併せ考えると、原告は、昭和六二年中に売買回数合計九二回、取引株式数合計九四万八二〇〇株の株式売買を行ったものと認められるから、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当し、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得として課税の対象となる。

五  結論

前記第二の二の2ないし5の各事実に、前記第三の四で認定説示したところを併せ考えると、本件各係争年中における株式取引による所得は、原告の雑所得となり、右株式取引に係る雑所得金額は、昭和六〇年分が右取引に係る利益金額三七六万二五五五円から右取引に係る経費五〇〇〇円を控除した三七五万七五五五円、昭和六一年分が右取引に係る利益金額七六三万〇七一三円から右取引に係る経費五三〇〇〇円を控除した七六二万五四一三円、昭和六二年分が右取引に係る利益金額一三〇九万九八〇五円から右取引に係る経費九二〇〇円を控除した一三〇九万〇六〇五円となる。

そうすると、原告の本件各係争年分の総所得金額のうち、株式売買による雑所得以外の所得金額は、前記第二の二の2のとおりであるから、原告の本件各係争年分の総所得金額は、別紙二<10>欄記載のとおり、昭和六〇年分が五八六万〇〇二七円、昭和六一年分が九一七万八九一六円、昭和六二年分が一四四六万二六三二円となる。

以上によると、本件各更正に係る総所得金額は、いずれも右総所得金額の範囲内にあるから、本件各更正には何ら違法な点はなく、したがって、これに基づく本件各決定にも違法な点は存しない。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 福井章代 裁判官 出口尚子)

別紙-1

課税処分等の経緯一覧表

<省略>

別紙-2

課税処分等の経緯一覧表

<省略>

別紙二

株式売買の回数及び総所得金額

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別表三<1>

現物取引損益明細表

<省略>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<2>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<3>

信用取引損益明細表

<省略>

信用取引損益明細表

<省略>

別表三<4>

信用取引配当金等明細表

<省略>

別表三<5>

現物取引損益明細表

<省略>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<6>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<7>

信用取引損益明細表

<省略>

別表三<8>

信用取引配当金明細表

<省略>

別表三<9>

現物取引損益明細表

<省略>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<10>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<11>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<12>

現物取引損益明細表

<省略>

別表三<13>

信用取引損益明細表

<省略>

信用取引損益明細表

<省略>

信用取引損益明細表

<省略>

別表三<14>

信用取引配当金明細表

<省略>

信用取引配当金明細表

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別紙四1

証券会社における株式に係る入出金の状況(原口はるみ)

<省略>

別紙四2

証券会社における株式に係る入出金の状況(池田慶子)

<省略>

別紙四3

証券会社における株式に係る入出金の状況(池田早智子)

<省略>

別紙五1

家族名義口座との預金の入出金の状況(原口はるみ)

<省略>

家族名義口座との預金の入出金の状況(原口はるみ)

<省略>

別紙五2

家族名義口座との預金の入出金の状況(池田慶子)

<省略>

別紙五3

家族名義口座との預金の入出金の状況(池田早智子)

<省略>

家族名義口座との預金の入出金の状況(池田早智子)

<省略>

別紙六

家族名義の各銀行の預金の入出金の状況(昭和59年~62年)

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別表一

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

別表三

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

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売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

別表四

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

別表五

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

岡三証券東大阪支店 原口はるみ名義

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山一証券東大阪支店 原口はるみ名義

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別表六

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

別表七

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

山一証券東大阪支店 原口はるみ名義

<省略>

平岡証券松原支店 原口はるみ名義

<省略>

別表八

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

別表九

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

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